① 報告
2月から3月はオミクロンのコロナ感染拡大で、会合の流会や、ZOOMへの変更など、また教会の礼拝も会衆なしのビデオ礼拝に逆戻りしました。でも次第に春も近づき、コロナ感染拡大が収束されることを祈る次第です。3月号は、ウクライナ侵攻のニュースが流れ、世界平和が脅かされています。3月号は、私からのレポートを載せて頂きたいと思います。皆さま方のご健康が守られますようお祈りいたします。
②「ウクライナ侵攻」と「裏側にある旧ソ連を支えたロシア正教の崩壊」
2年間続いた新型コロナ感染が収束するかどうかの2022年に突然、ロシアのウクライナ侵攻の出来事が起こり、様々な分析や解説がニュースとして流れています。東西冷戦の再発とも思われる今回の出来事が、歴史の逆戻りという意味で、ロシア大統領のウクライナ侵攻の目的と意図は何かという問題が論じられている中、私は政治家ではありませんので、この件は皆さんがニュースとして流されていること以上に論じることはしませんが、幾つかの宗教的動機について、私の体験に基づいて客観的に論じてみたいと思います。
2018年9月27日から10月2日までの6日間、私はアルメニアに滞在しましたが、これは聖書協会世界連盟の理事として、聖書を翻訳・頒布しているギリシャ正教、アルメニア教会、カトリック教会、ロシア正教会の聖職者たちと国際会議を開催し、それぞれの教派の聖書・翻訳・出版・頒布を支援するための協議を行い、双方の調印式に臨むためでした。 聖書協会世界連盟は国際会議の主催者として10名近い参加者と、各教派の代表団を含め50名ぐらいの会合でした。聖書はそれぞれの教派の言語で翻訳されますので、各教派の使用する聖書が違うわけです。聖書翻訳とは聖書研究者による膨大な翻訳作業の時間と費用を要するため、その作業を支援することが聖書協会世界連盟の使命であるわけです。何故、アルメニアで開催されたかと申しますと、アルメニア教会は1世紀にキリスト教伝道がなされた以降、アルメニア地域では独自に教会が設立され、カトリックとも、正教会とも異なるアルメニア教会が今日まで存続してきました。それ故に、各教派の聖職者が一同、集まるには中立的な立場だからです。アルメニア教会のように類似した独立教派としてはエチオピア教会とか、シリア教会があります。カトリック教会とギリシャ正教は1054年にキリスト教教義の違いによって東西に分裂して、長い間、対立して来ました。
この東欧のキリスト教派の国際会議が開催された時、ギリシャ正教会のコンスタンティノープル総主教は出席したのですが、その時、ロシア教会の総主教が招かれていないと、アルメニアの人々が不満と不安を口にしましたことを思い出します。アルメニアは旧ソ連時代の同盟国です。そえゆえ、ギリシャ正教とロシア正教が対等に扱わないと、双方の対立均衡が崩れてしまうというのがその理由でした。実際はロシア正教会からは総主教ではなく、位の低い聖職者が出席していたのですが・・。
元々、ギリシャ正教会とロシア正教会は、過去にギリシャ正教会から独立した同じ同盟関係でした。正教会とはそれぞれの国が総主教座を置くことで、お互いの関係が成り立っており、カトリック教会とは異なってその国の正教会はその国の政治と深く関わる「政教一致」の体質を持っています。それゆえ一つの国に一つの総主教座が許されるのです。そこでロシア正教ですが、その総主教座はモスクワにあり、ベラルーシやウクライナはそのロシア正教会の影響下に置かれていました。それはまだ総主教座を置くまでに至らない、必要が認められない状態として扱われていました。しかしながら、東西冷戦の中で、この正教会の世界に対立構造が次第に生まれて来ました。ギリシャ正教会は西側に寄り添い、ロシア正教会はロシアの地を東側の本拠地にしています。
そのロシア正教会に属するウクライナの信徒たちがロシア正教会から独立したいという機運が高まりウクライナ独立正教会が誕生したのですが、まだ正式に認められないままでした。そしてついにロシア正教会の反対を押し切って、私たちが国際会議を開いた2週間後の10月18日に、ウクライナ独立正教会がロシア正教会から正式に分離し、それをコンスタンティノープル総主教座が正式に認めたというニュースが流れたのです。ですから、このウクライナ正教会の分離という緊急問題で、ロシア正教会の総主教が、とてもアルメニアの国際会議に出席できる状況ではなかったことが後で、判ったのです。
旧ソ連の同盟国の中には、カトリック、プロテスタント、その国ごとの正教会がありますが、「政教一致のロシア正教会」の信徒にとっては、自分が住んでいる地は、ロシア領だという同一性が存在するということです。
ウクライナの隣りのポーランドはカトリック教会の影響下ですし、フィンランドはプロテスタント、エストニアとラトビアもプロテスタント、リトアニアはカトリックと言う具合に東ヨーロッパにはキリスト教派の複雑な構造が横たわっていることを知らなければなりません。その上、NATOやEUの拡大で東ヨーロッパにもプロテスタント教会も進出し、様々なキリスト教派、他宗教が入り乱れるようになりました。その中でオーソドクシ―と呼ばれる正教会は、常に国家の権威と一致して宗教活動が行われてきた「政教一致」を伝統とする歴史があり、ロシア正教会がロシアの国を支えるという使命感がまだ残っているのです。赤の広場に行きますと、周囲にロシア正教会の建物が建っているのに気がつくでしょう。私もモスクワのロシア聖書協会事務所に何度か足を運んだことがありますが、ロシア聖書協会は殆どの聖書翻訳と出版・頒布の仕事は、すべてロシア正教会のためのものでした。
そこでロシアの大統領のプーチンですが、共産主義国家の中でも母親が熱心なロシア正教会の信者で、彼自身も洗礼を受けていますし、ロシア正教会は現在のロシア政府を応援している支援機関です。共産主義は元々、宗教を否定してきた過去の歴史があるのですが、一般民衆の中では高齢者を中心に伝統的なロシア正教会への信仰は厚く、プーチン大統領自身もその信徒の一人として、根底にはロシア正教会への素朴な信仰心があるのではないかと思います。
お膝元のウクライナのロシア正教会の信徒がロシア政府の支配下を嫌い、コンスタンティノープル総主教座の正式な承認によってウクライナ正教会として独立し分離したことは、ロシア正教会にとっては許せない内部反乱で、この2018年の事件以来、ギリシャ正教会とロシア正教会とは完全に断絶状態になりました。このウクライナのロシア正教会からの分離によって、ロシア正教会の全体の四分の一の信徒数が減少するということです。その上、ウクライナ正教会の信徒とロシア正教会の信徒の間のいざこざが4年前から始まり今まで継続して来たというのが実情です。同じお膝元のベラルーシは80%の人々がロシア正教会信徒で、同盟関係によって固く結ばれています。つまり、既に4年前にロシアとウクライナの間でロシア正教会内部の分裂が起こったということです。
本来、宗教とは教派が違えども、いがみ合うものではありません。底辺にこのような宗教心の対立があることは残念なことです。キリストの教えは、互いに愛し合いなさい。敵をも愛しなさい。赦しなさい、との教えですから、戦争などは許されるものではありません。最近の各国の正教会は、21世紀になってから内部改革が進み、他のキリスト教派とも進んで連帯を始めるようになりました。これをエキュメニカル運動(教会一致運動)と呼びます。日本の正教会は、ロシア正教会とアメリカ正教会の両方から支援を受けて、設立されたと聞いております。日本正教会には東西の対立は無いようです。そうしますとロシア正教会の保守的な体質が問題なのか、それ以上のことは分かりません。2000年5月ロシアのアレクセイ総主教が来日した時、私は東京のニコライ堂で礼拝に出席し、ホテルでのレセプションにも参加したことがあります。総主教用のジェット機で来られ、衣装は金、多くの宝飾が散りばめられ、皇帝のような格式がありました。ロシア正教会は、アメリカのプロテスタントは全く違い、信仰は原初的で、真面目な礼拝は3時間に及びます。LGTBには反対で、厳格な信仰は陽気なプロテスタントとは全く異なるものでしょう。
ウクライナの中立化の他に、プーチン大統領がウクライナ侵攻の理由に訴えている「ネオ・ナチスの撲滅」ですが、これは完全に政治的な問題で、クリミヤ侵攻以来、アゾフ連隊という政治秘密結社が西側の右翼の外人部隊を含めウクライナ東部に潜り込み、宗教対立とは別にロシア系住民との抗争に活動しているらしいとのことです。彼らは鍵十字をシンボルとした匿名の構成員からなるとされています。全てこの記事は伝聞ですので、正確な情報は分かりません。アメリカ政府もこの団体の存在を知っていて、その団体を正式には認めていません。
③ウクライナの滞在1日だけの訪問記。
私は一度だけ、ウクライナを訪問したことがあります。2003年6月に乗り換えの1日を使い、ウクライナ聖書協会を訪れました。その日は一日中、孤児院を訪問するために時間を費やしました。ウクライナ人は大柄の体格の方が多く、何故、孤児院訪問かと申しますと、戦争孤児なのでしょうか、或いは経済的な理由で孤児になったのでしょうか、彼らが大人になった時、多くの孤児が有能な兵士の道を歩むのだそうです。つまり親戚関係がありませんから、命知らずということなのでしょうか。それゆえウクライナ聖書協会では、そのような孤児院を慰問し、少しでも子供たちに聖書に親しむ機会を与えるために文書伝道をしているとのことでした。帰国後に、私はウクライナ語の聖書を日本国内で印刷し贈呈したことを覚えています。またウクライナはIT技術が盛んで、インドと同様、多くのコンピューターソフトが作成されています。聖書資料のソフトとかは、ウクライナに発注したことがありました。
④アルメニアに初めて1週間滞在して
アルメニアには2018年の訪問ですが、首都エレバンにあるジェノサイドのモニュメントを慰問しました。アルメニア人はトルコと隣接し、オスマントルコ時代にトルコ国内のアルメニア人200万人が虐殺された事実が近年明らかにされました。これはユダヤ人のホロコースト以前、何と第一次世界大戦前の出来事で、多くの人々には真相が隠されたままでしたが、正式なジェノサイドとして国際連合で認められるようになりました。アルメニアと言う国は歴史が古く、世界で最初にぶどう酒が醸造されたといわれていて、とてもおいしい葡萄が育ちます。それゆえにウクライナ産のブランデーはロシアに輸出され、世界最高のお酒としてイギリスのチャーチルも好んだと言われています。首都エレバンから常にノアの箱舟がたどり着いたと聖書に書かれているアララト山を見ることができます。聖書も初代アルメニア教会が用いた独特なアルメニア語で書かれたものが博物館に保存され、私たちの聖書とは多少異なるそうで、新約聖書の研究対象となっています。アルメニア教会の特徴は、聖画がとても素晴らしくそれを家や礼拝堂に飾ります。「イコン」と呼ばれ、それを見るだけでも、信仰心が宿るのです。数枚、プレゼントで頂きました。
私は、政府が運営する中学校を訪問し、聖書クイズ大会の催しに出席しました。日本で文科省というべき役人も列席した中で、生徒たちが、聖書を丸暗記するぐらい記憶力が良く、とても日本人には真似ができないほど頭脳が明晰です。これは東ヨーロッパ全体が貧しさのゆえに余計な娯楽で頭を使わず、勉学に没頭するという明晰さだと感心させられました。
⑤コンサートのお知らせ
昨年のクリスマスコンサートに引き続いて、4月8日(金)午後18時開場で、東京オペラシティを会場に、ヘンデルのメサイアが公演されます。今年のイースターは4月17日(日)です。受難日の1週間前ですが、オーケストラとコーラスと共にキリストの受難を深く心に抱きながら来会されますことお祈りいたします。詳細はチラシをご覧ください。
⑥ 3月のメッセージ
3月27日の常盤台バプテスト教会の礼拝での説教原稿をお読みください。 一般のYOUTUBEで 「常盤台教会 渡部信」で検索しますとこの礼拝の映像を観ることができます。