1. キリスト教神学者で、ジョン・ヒック(1922-2012)という宗教哲学者がおりましたが、私はアメリカ留学中に彼の著書を読み、大変興味を持ち修士論文をまとめました。彼はキリスト教神学者でありながら、他の宗教者に対してキリスト教の絶対性をもって退けず、対等の立場でイスラム教、仏教、ヒンドウ教と対話を試みようとした人です。宗教哲学の視点からも、無神論者や不可知論者とも「信仰者の本質」を問うた人です。普通、3つのタイプがあります。①キリスト教の絶対性を主張し、他を排除する考え ②キリスト教の絶対性を主張するのだけれども、他へ寛容であるとする包括的な考え ③キリスト教の絶対性を主張するのだけれども、他の宗教者も絶対性を持っているならそれを対等に認め、対話し共存する考えです。①と②の場合は、本当の対話は平行線で成立しません。
1980年代に③にある他との共存をいち早く唱えたのがジョン・ヒックでした。それはイギリスのバーミングガムで多種の移民と共に多くの宗教が持ち込まれている様子を知ったのがきっかけでした。それを宗教多元論として紹介をしたのです。これはキリスト教界から大きな反対論が出されました。キリスト教が唯一の正しい宗教だのに、或いはキリスト教と他の宗教の混合、或いは融合を図るものだとかです。ヒックは、そう言っているのではありません。彼はキリスト教者ですから、絶対的にそれを信じているのですけれど、他の宗教者に自分の信仰の優位性を説くなら、相手もそう思って信仰している以上、対等の対話と共存の道を提唱したのです。2002年にアメリカがイスラム教と衝突した時に、アメリカの人々はイスラム教を異教徒として敵視しましたが、実のところ殆どの人々はイスラム教について全くの無知でした。今では人権の立場から異なる宗教者に対して差別的であってはならないことが徹底されていますが、今から40年前に既に彼はそれに気づいていたのです。
イラク戦争後に、この宗教多元論は多くの国際政治家にも影響を与え、外交政策を変えたと言われます。ジョン・ヒックの信仰の認識論を読みますと、信仰というものは、信じる対象の正当性がどこではかれるのか(無神論者も含めて)、それは信じた者の信仰の実、善なる結果が証明する。ジョン・ヒックにとってはその実はキリストが教える「与える愛」であり、キリスト者はそれがゆえにキリスト教を信じるのであり、宗教的装いや違いは、それを覆う外観でしかない。
こうなると世の中の宗教観が複雑になって来るのは確かです。宗教の共存では「人権と平等」の問題が主題となり、宗教心より実存的な人権の主張の拡大へと関心が移りはじめ、そういう意味で、本来の宗教心のリベラル化が起こり、新しい信仰の在り方が模索される時代となりました。だからといって、本来の宗教は必要でないと言っているわけではありません。本当の宗教心こそ井戸の底にある地下水を汲み上げるように、信仰心の深い本質を大切にすべきことだと思います。キリスト教の歴史をみても、古いものから新しい発見をして変革を遂げてきました。これは更なる議論へと深めることになるでしょう。
このジョン・ヒックを専門的に研究されている宗教哲学専門の間瀬啓充先生(慶応大名誉教授)から一冊の本を贈呈くださいましたので、今回ご紹介します。「宗教と理性をめぐる対話」(教文館)(¥2500)。ジョン・ヒック関連の翻訳本となっています。間瀬先生とは1989年に「もうひとつのキリスト教」(日本基督教団出版局)という題名でジョン・ヒックの本を、先生と共訳し出版したことがあります。また日本にジョン・ヒックが2度ほど来日して講演した折りにも同席させて頂きました。
興味のある方は、20冊近くヒックの和訳本が出版されておりますので、一読ください。
2. 前月号で紹介しました「世界宗教者平和会議」WCRPが創設五十周年記念式典・シンポジウムを京都で11月に開催される通知を頂きました。残念なことに新型コロナウイルスのため出席者は限られるということですが、発足の第1回は1970年に京都で、日本の諸宗教者が集まり世界大会が行われたという歴史を持っています。私はZOOMで参加しようと思っています。
3. この9月26日(日)は常盤台バプテスト教会で礼拝説教を担当しました。原稿はクリックで読むことができます。
掲載文 メッセージ「十字架の癒し」民数記 21:4、ペテロ第一 2:22〜25
YOUTUBEは「常盤台教会 渡部信」で検索し、ご覧になることもできます。
メッセージを掲載しましたので、クリックしてご覧ください。
4. 藤嶋昭先生の記事が最近、ニュースで流れていましたのでご紹介します。藤嶋昭先生は1980年前後、私がアメリカ留学中に、先生はテキサス州都オースチンのテキサス大学に交換教授として滞在されておりました。私がオースチンの日本人教会に出向いた際、そこでお知り合いとなりました。奥様ともども熱心なクリスチャンです。最近では東京理科大学学長を歴任され、今や日本人のノーベル賞候補者として毎年、名前が挙がっております。特に光に通信技術をのせるという新しい画期的な研究が、多くの注目をあびております。つまり電波ではなく、光から音楽が聞こえる?! 今回のニュース記事はその研究所を中国上海の大学に設置し、共同研究所を進めるという内容でした。これは日本の頭脳流失だと惜しまれています。科学への大きなチャレンジを、世界をまたに研究される藤嶋昭先生を応援しています。